小学館アカデミー小学校英語活動 英活ブログ

寛治先生走る

どうする?小学校英語 第27回

小学校における国際コミュニケーションの素地つくり


昨年の三月末、文部科学省は、今後の小学校英語教育は、「スキル学習ではなく、国際コミュニケーションの素地つくり」を重視すると発表した。本年一月に文科省初等中等教育局長が京都市で行った講演の中でも、この指針の効力は生きつづけていると明言しており、今後の国の教育施策として受けとめてよい。各地の教育委員会ではこのことを重視しているが、学校教育現場では依然として暗記を重視した、ときには読み書きも含めたスキル学習を行っているところがある。学校長のなかにも、小学校英語教育は「英語を学習する」あるいは「英語を教える」ことがねらいであると思い込んでいる人もいる。そこで、中教審外国語専門部会がまとめたこの指針は、これまでの教育成果をもとに、今後施策可能なあるいは推進すべき内容を示したものであることを改めて確認しておきたい。


●小学校からの国際・英語教育で育みたい資質・能力とは
公立小学校における英会話(英語による音声コミュニケーション)を取り入れた教育課程の研究は、平成四年、当時の文部省より研究開発学校として指定された大阪府の二小学校で始まった。それ以来、全国各地でさまざまな取り組みがなされてきた。この種の教育研究は今年で十六年目に入るが、その間、筆者は全国五〇〇校以上の公立小学校や各地の教育委員会等の教育改革の支援をするとともに、直接子どもの指導も行ってきた。では、この十五年間に小学校英語活動で得た成果のうち、このたびの指針に生かされたものは何だったのであろうか。


この十五年間で多くの小学校が得た英語活動の成果のエッセンスとは、「ほとんどの子どもがALTと臆することなくコミュニケーションを図れるようななったこと」であろう。教科書学習では力を発揮できない寡黙な子どもが英語活動ではもちろんのこと、それ以外の教育活動でも活発になったり、特別支援が必要な子どもも明るく元気にALTとコミュニケーションをとるようになったりした。これらは、「英語を学ぶ」あるいは「英語を教える」という活動の成果ではなく、子どもの興味・関心を重視したテーマで、ALT等との実際的コミュニケーションを重視した活動の結果であった。いいかえれば、平成十三年の文科省が刊行した『小学校英語活動実践の手引』の内容どおりに行ってきた学校教育の成果でもあった。それ故、文科省が発表した「小学校段階では、英語のスキル学習ではなく、積極的にコミュニケーションを図るなどの国際コミュニケーションの素地を育む」ことを重視するとした指針も、このような活動の成果を重視した結果であったといえよう。


ちなみに、このALTと積極的にコミュニケーションを図る態度の育成は、中学校外国語科の目標の一つでもあり、一九六九年の学習指導要領改訂時以来、三八年間にわたり日本の外国語教育がかかえてきた課題の一つでもあった。いま、そのことが解決される見通しとなったのである。


また、この積極的な態度は、現代の教育課題である「生きる力」の育成や国際教育のねらい(自己決定・行動力、主体性、共生)を全うするきっかけにもなっている。とりわけ、ALTとのコミュニケーションで求められる「自己決定・行動力」は、ALTとの英語活動ゆえに育まれる資質・能力である。したがって、英語活動で自己発信せねばならない活動を続けていると、国際教育では不可欠な「主体性」も育まれる結果となる。


さらには、小中連携の異学年合同の英語活動などでは「互いに思いやる心」も育つことがわかっている。筆者が支援中の品川区、三鷹市、さいたま市の小中一貫国際・英語教育では、児童と生徒の間に共生の心が育まれている。したがって、英語活動は子どもどうしのよりよい人間関係力を培ううえでも有効な教育活動であるといえよう。

以下次号


(社)日本図書文化協会 日本教育評価研究会発行「指導と評価」vol.53 7月号(通巻631号)


どうする?小学校英語 第26回


「導入してよかった」と言える教育をしよう!


平成十八年度、筆者は全国五十か所以上の地域における小学校英語活動、または小中連携の国際・英語教育の実践、ならびに学校教育研究を指導する機会を得たが、そのうちの約三分の一は大なり小なり疑問に思う教育行っていた。そこで、本稿では「小学校段階から英語を取り入れたカリキュラムを実施して、ほんとうによかったといえる教育とは一体どのようなものなのか」について、再度考察してみたい。


さきほど、疑問に思う教育と述べたが、それは「そこでの教育が、だれのための、何のための教育なのか」が見えない教育をしていたからである。具体的には、英語の文法、文型などの定着、すなわち言語能力の習得をめざしたスキル学習をねらいとする教育を行っていた。したがって、そのような地域や学校では、「今日の授業で学習した表現が言えたか/言えなかった」などを重視するため、言えない子は取り残されたり、英会話塾へ通ったりする子が増える結果となった。とりわけ特別支援が必要な子どもにとって、そのような暗記重視の学習活動は苦手であろう。例えば、東京都豊島区H小学校の第五学年には、軽度も含めると約四割の特別支援を必要とする子どもがいるが、そのような学校のことを思うと、「だれのための、何のための教育か」を真剣に考える必要がある。


また、そのようなところでは、「英語活動を通して育みたい子ども像」がなかったりする。その際、本来その子ども像を全うするために開発した英語活動の内容と、指導案が適切であったかどうかをチェックする評価規準(具体的な到達目標)も必要とされるが、それも策定されていないことが多い。その結果、実際の英語活動を観察してみると、活動を通して子どものどのような資質・能力を育みたいかが見えない授業となってしまっているのである。


英語活動のねらいについて文科省は、昨年三月末に「小学校段階では、英語のスキル学習をねらいとするのではなく、積極的にコミュニケーションを図るなどの国際コミュニケーションの素地を育む」ことを重視すると発表している。これなら、特別支援を必要とするとする子どもも活動を楽しむことができそうである。なぜならこのねらいは、これまでの小学校英語活動の成果そのものだからである。ALTとの楽しいコミュニケーション活動を通して、寡黙な子が活発に変容する事例などは数えきれない。英語活動で多くの子どもが明るく元気に変容した。これこそ、導入してよかったと言える教育であろう。


また文科省は、音声言語活動を通して、グローバル化への進展への対応の一環として「コミュニケーション力の向上や母国語を含む言語や文化についての理解を深める」ことも強調している。小学校段階では英語の習得をねらいとするのではなく、国際コミュニケーション力の素地づくりを最大の目標とする文科省の方針は、平成十年度以降、中高の外国語科がめざしている「実践的コミュニケーション力」の素地づくりにつながっている。


さらには、本年三月三日の文科省主催「英語が使える日本人育成のためのフォーラム二〇〇七」で、今回より「国際教育推進フォーラム二〇〇七」も同時に開催された。そのフォーラムでは、文科省が平成十八年度より推進している国際教育推進プラン(児童生徒の「共生」「自己決定・行動力」「個の確立【主体性】」の育み)に取り組んできている文科省指定地域(新潟県上越市ほか)より中間報告がなされた。今後、国際コミュニケーション力の素地をつくるには、このような国際教育の観点から「人間力」育成のための教育を推進することが大切である。なぜなら、そのような教育は「生きる力」の育みにつながるからである。

以下次号


(社)日本図書文化協会 日本教育評価研究会発行「指導と評価」vol.53 5月号(通巻629号)


どうする?小学校英語 第25回

特集 ●教科書に期待する

小学校英語活動に教科書は必要か


小学校の英語活動に教科書はないほうがよい。ただし、指導のための教師用手引きや具体的なカリキュラムは必要となる。手引きなどは文科省が作成するであろうが、具体的なカリキュラムについては地域や学校が開発することになるであろう。そこで本稿では、どのような教育内容を掲載したカリキュラム本(図書教材)が望ましいかについて考察してみよう。そのためには、まず「小学校で望まれる英語教育のあり方」から論ずる必要がある。そればわかれば、具体的な教育内容を開発するうえでの留意点も見えてくるからである。


1 小学校英語の方向性
今後の小学校英語教育の方向性については、平成十八年三月末に「中央教育審議会外国語専門部会」のまとめが公表されており、文科省もその方向で行うとしている。それによると、小学校段階では英語そのものを習得する、いわゆる「スキル学習」を第一義とするのではなく、「英語を使った活動を通して国語や我が国の文化を含め、言語や文化に対する理解を深めるとともに、ALT等との交流を通して、積極的にコミュニケーションを図り、国際理解を深めることを重視する」とのことである。つまり、「ことばと体験」「国際感覚」を磨く観点から「国際コミュニケーションの素地つくり」を第一義としている。しかも、ALTとの音声中心のコミュニケーション活動を重視するとしている。それゆえ、児童のための教科書は必要としない。もしあれば、スキル学習に傾く可能性が高い。


2 中学校外国語科および国際教育の目標の関連性
 既述の今後の方向性は、次に示す中学校外国語科および国際教育の目標と密接な関連があるので、カリキュラムを開発するうえで認識しておく必要がある。
中学校外国語科目標:「外国語を通じて、①言語や文化に対する理解を深め、②積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、③聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」(※数字は筆者の付記による。)
国際教育の目標:①自らの考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力の育成【自己決定・行動力】。②自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立【主体性】。③異文化や異なる文化をもつ人々を受容し、共生することのできる態度・能力の育成【共生】。(※『初等中等教育における国際教育推進検討委員会報告』文科省、二〇〇五)
(1) 中学校の目標との関連
 既述の中教審外国語専門部会が示した「英語を使った活動を通して国語や我が国の文化を含め、言語や文化に対する理解を深める」については、中学校の目標①「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め」との連携になる。これまで、国際理解を深めるための英語活動を行ってきた地域や学校はたくさんある。また、「ALT等との交流を通して、積極的にコミュニケーションを図り」についても、中学校の目標②「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り」との関連性を重視している。この態度については、全国のほとんどの地域や学校の児童が、ALTとのコミュニケーションを楽しむ活動で身につけてきた。小学校段階では、ALTとの異文化コミュニケーション体験を通して、国際理解を深めることが第一義とされる所以である。それゆえ、(文法や文型の定着をねらいとする)語学のための教科書は必要としない。
 教育特区には、中学校英語検定教科書を小学校高学年で用いて「読み書き」の教育を行っている地域がある。しかし、そのようなところでは、英語ぎらいの児童がすでに増えつつある。特別な支援を必要とする児童のことを思うと、「英語が言えた/言えない」や「英語が読めた、書けた」などを見取るスキル習得の教育を重視することにどれほどの意義があるのか、慎重に審議すべきである。
(2) 国際教育との関連
 次に、国際教育の目標との関連性については、①「自己決定・行動力」が培われる英語活動は各地で行われてきた。ALTとのコミュニケーションでは、常に自分で決めて、自らその気持ちや考えを発信することが求められるからである。またALTとの楽しい活動では、児童ゆえに、臆することなくコミュニケーションを図る児童が増えており、このことは国際教育で求めている②主体性(アイデンティティ)の育成につながっている。さらには、英語活動ではグループ活動も多いので、③の共生(思いやり)の心も養われる。


3 カリキュラム開発上のポイント
それでは、既述のことを踏まえたカリキュラム開発上のポイントについて述べる。したがって、このポイントが図書教材を開発する際に求められるものとなる。その開発の原理は「指導と評価の一体化」の理念に尽きる。
①各地域や学校の教育目標と既述の国際教育の目標との関連性を明確にする。
小(中・高)の英語教育は、国際教育の一環として行われるからである。その際、国際教育の観点から育てたい子ども像を明示し、そのうえでカリキュラムに盛り込みたい国際教育内容と子どもの変容を見取るための評価規準(具体的な到達目標)を開発しよう。
②小学校英語教育の目標と評価規準を策定する。小学校の目標については、「英語活動を通じて外国の言語や文化等に慣れ親しみ、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、音声中心の実践的コミュニケーション力の基礎を養う」などが考えられる。目標や評価規準を策定する際は、小中連携の教育観も大切にしよう。そして、その評価規準を軸に、活動内容と指導のあり方が目標を全うするかどうかチェックできるように配慮しよう。「教育は、評価に始まり評価に終わるべし」を常に心がけたいものである。
③活動のトピックは、児童の興味・関心が高く、かつ育てたい子ども像につながるものでありたい。とくに高学年児童については、中学年までとは異なる発達上の心理的特徴を生かすことがコツである。
④ 評価は、児童のパフォーマンスを見取るプロセス評価とする。具体的には、「~をし(ようとし)ている」とする。コミュニケーション力は一夜にして身につかないからである。
⑤ 最後に、英語活動のプロデューサーは担任である。常に、PDCAサイクルでカリキュラム運営ができるように配慮する必要がある。(詳細は、次の【参考資料】参照)
【参考資料】
・小学校英語カリキュラム開発研究会『子どもが変わる!小学校英語活動』新学社、二〇〇六年(評価規準を設定した成果が見えるカリキュラム本)


(社)日本図書文化協会 指導と評価 vol.53 5月号(通巻629号)より

どうする?小学校英語 第24回

PDCAサイクルで教育の説明責任を果たそう!


小学校英語のねらいは何か
本年一月のある教育系新聞で、現在中央教育審議会の重要な役を担っている委員が、「小学校からの英語教育については、小学校から英語を勉強して身につくのか、また、だれが英語を教えるのか」が問題であると述べている記事を読んだ。


しかし、この「英語の勉強」とか「英語を教える」というとらえ方は誤っている。この件について文科省は、昨年三月末に中教審外国語専門部会のまとめを発表している。それによると、「小学校段階では、英語のスキル学習をねらいとするのではなく、積極的にコミュニケーションを図るなどの国際コミュニケーションの素地を育む」ことを重視すると述べている。また、音声言語活動を通して、グローバル化の進展への対応の一環として「コミュニケーション力の向上や母国語を含む言語や文化についての理解を深める」ことを強調している。


小学校英語担当の文科省教科調査官も、各地の講演などで「小学校の英語教育は、話す、聞くなどのスキルを磨くための教育ではない。したがって、英語がぺらぺらしゃべれるようになるわけではないので誤解のないように」と説明している。にもかかわらず、いまでも勝手な思い込みが横行している状況である。


●英語習得を目的にしない
学校現場でも、このように誤解されたまま英語の習得をねらいとした学習活動を行っているところがある。そのようなところでは、読み書きも含めた英語の語彙や文型定着をねらいとした活動を行っている。したがって、特別支援が必要な子はもちろんのこと、寡黙な子や暗記が苦手な子らは「英語の授業はきらい」とアンケートに答えている。なぜなら、「英語が聞き取れたか」「英語の表現が正しく言えたか」などが到達目標となるからである。これでは、だれのための、何のための教育なのかわからない。
公教育では、だれもが「導入してよかった!」と言える教育をすべきである。


PDCAサイクルの教育を
そのためには、どのような教育をすればよいであろうか。指導と評価の一体化を軸に、PDCAサイクルの教育を行う必要がある。


(1)まず、国際コミュニケーション力(資質・能力)の育成をめざした英語活動のねらいと評価規準を策定しよう。【P】
英語活動が教科でない場合、国は評価規準を策定しないが、教育現場では子どもの変容を見取るための評価規準は必要不可欠である。例えば、教育特区では市区税を用いて独自の教育政策を行っているので、その教育成果の説明責任を果たすための評価規準が必要となる。


(2)次に、全体の目標と評価規準を軸にカリキュラムを開発し、一回一回の授業を検証しよう。【P→D→C】


(3)最後に、その検証授業で洗い出された課題を検討・改善し、再度授業を実施しよう。【C→A】


●評価規準の策定と評価規準による見取り
さて、授業の検証では児童のコミュニケーションにおけるパフォーマンスの状況(プロセス)を見取ることになる。コミュニケーション力(資質・能力)は、コミュニケーションをしているときに培われるからである。
しかし、その見取りは容易ではない。音声中心のコミュニケーション力は、漢字をマスターするような習得型学力よりむしろ学究型の学力であるため、評価しにくい。それゆえ、だれもが納得できる指導と評価の一体化をめざした評価規準の策定と、その評価規準による見取りの研修が必要となる。各自治体や学校では、今後そのような教育の実施が求められよう。

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2007.vol.53 1月号(通巻625号)


どうする?小学校英語 第23回


再考――小学校からの英語活動の意義


二〇〇六年九月末、伊吹文部科学大臣は就任早々「小学校の英語必修化は不要......国語が第一......」と述べた。日本人が日本語や日本文化を第一義とすべきでることは当然である。
ところが現在、日本には母国語で自分の気持ちや意見を堂々と、わかりやすく述べることができない子が目立つ。また、国際コミュニケーションでは不可欠な「自己決定・行動力」や「主体性」に欠ける子も多い。例えば、ALTとの英語活動で「何色が好き?」と聞かれて、その意味がわかっても「う~んとね」を繰り返すだけである。自分の気持ちや意見を聞かれても即答できないのである。

これらは、国語教育を中心に「伝え合う力」の育成と関連づけて取り組まねばならない課題である。しかし、これまでALTとの英語活動を通じて、自ら伝え合う子が増えつつあることが判明している。また、そういう子は他の教科・領域でも積極的に取り組んでいる。さらには、他人とかかわりたがらない子がお気に入りのALTと口を利くようにもなっている。

それにもかかわらず、小学校からの英語活動の意義を理解しない人々がいる。したがって、その導入の意義について、今回は小中連携の教育視を軸に再考したい。なぜなら、義務教育としての教育の到達点は中学校にある故、英語教育もこれからは小中連携で考える必要があるからである。
では、その中学校外国語科のねらいを確認しておこう。


○中学校外国語科の目標:「外国語を通じて、1.言語や文化に対する理解を深め、2.積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、3.聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」(番号は筆者の付記による)


○中学校外国語の教科内容:主に「言語活動」(※「学習活動」は、一九六八年度まで)


中学校外国語科の目標は、言語の学習ではなく、実践的コミュニケーション力の基礎を養うことにある。特に、小学校英語活動で成就される「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度(資質)」と次の四コミュニケーション能力【(ア)言語能力 (イ)社会的言語学能力 (ウ)談話能力 (エ)方略能力】の基礎をバランスよく養うことがねらいである。


例えば、Let's go shopping. の表現例を用いてその四能力について概観してみよう。
A: Hello! (イ)― B: May I help you?(イ)― A: Yes. I want apples. (ウ)- B: Apples?(エ) How many?(ウ)― A: Five, please.(ウ・イ) How much?(ウ)― B: Three dollars.(ウ)― A: Three dollars? (エ) Here you are.(イ)― B: Thank you. Bye!(イ)― A: Bye!(イ)


これら一連の表現は、(ア)の言語能力(語彙、文法等)をベースに成り立っているが、コミュニケーション教育には、(イ)~(エ)の能力の育成も必要とされる。小学校の実践的英語活動では、音声中心にこの(イ)~(エ)に慣れ親しんでいる。一方、中学校の英語教育は、主に(ア)の言語能力の育成をめざした学習活動を行っているところが多い。とりわけ、目標3の下線部の「など」にあたる「読むこと」「書くこと」の活動に多くの時間をさいている。


二〇〇六年三月の中教審外国語専門部会のまとめによれば、今後の小学校英語は、言語能力(語彙・文法等)を身につけるためのスキル学習をねらいとするのではなく、音声英語に親しみながら国際コミュニケーションの素地を養うとしている。例えば、さきほどの会話例で言えば、~ please. や Thank you.の思いやり表現は、国際コミュニケーションには不可欠な素地である。また、英語活動を通じてお互いに友達を思いやる心やALTと臆することなくコミュニケーションを図る児童の姿は、いずれも文科省の国際教育で求めている「共生」「自己決定・行動力」「個の確立(主体性)」につながる教育の表れといえよう。

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2007.vol.53 1月号(通巻625号)


どうする?小学校英語 第22回

小学校英語活動の評価のあり方


九月号で、英語活動の評価のあり方について多少ふれた。今回は、その評価のあり方について、もう少し詳しく述べる。その内容は、通知表や指導要録の中身にも関連することになろう。まず、教育成果の評価には、少なくとも次の手順が必要である(九月号参照)。英語活動のねらいと到達目標である評価規準が明示された指導案をもとに授業を行ったら、必ずその教育成果についてチェックしよう。なぜなら、その活動の指導案が本時のねらいを全うしているかどうかを確認し、教育成果の説明責任を果たす必要があるからである。


例えば、Let's go shopping.というトピックのコミュニケーション活動を行ったとしよう。この場合、「自分の意志を相手に伝える」というねらいと、「(例えば、果物屋での)買い物を通して、自分の買いたいものを相手に伝えている」などの評価規準が考えられる。このようにカリキュラム開発する際、中高の外国語科のねらいでもあるコミュニケーション力(積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度とお互いに意志を伝え合う能力)とその核ともいうべき「自己決定・行動力」を育むためには、必ずトピックや場面、そしてコミュニケーション上の言語の働き(ここでは「自分のほしいものを伝える」という言語行為)を最優先し、言語材料は最後に用意する。そのうえで、準備された活動内容が本時のねらいを全うしていたかどうかのカリキュラム評価を行う。その際、あらかじめ設定した評価規準に基づいて評価する。


具体的には、評価すべき活動内容においてクラスのほとんどの子どもの眼が輝いていたかどうかが、「おおむね満足」として目安となる。もしどうでない場合は、その評価規準に基づいて、活動内容と指導のあり方などについて具体的に分析する必要がある。指導と評価の一体化がうまく行われていない可能性があるからである。


活動のねらいを全うしていない場合、一般には、計画した活動内容が子どもの興味・関心に即していなかったり、準備した言語材料の負荷量が不適切であったりすることが多い。また、指導方法においては、言語の学習活動をしている子どもの眼は輝かなくなる場合が多い。例えば高学年では、言語の定着を図る目的で繰り返し練習ばかりしていると、その活動に飽きる傾向にある。このような単調な学習活動は、左脳の働きが活発になっている高学年の心的発達にふさわしくないからである。彼らは、コミュニケーションの道具としての言葉の働きを認識できる年齢ゆえ、実際に意味のある活動をしないと、納得しない。したがって、子どもの眼が輝かない場合、必ずその原因を追究し、カリキュラムの改善に努める必要がある。


次に、子どもの変容に関する評価のあり方について述べよう。英語活動における子どもの評価は、各学校や地域で開発した評価規準を用いて行うとよい。英語活動におけるパフォーマンス評価は、評価者の主観に頼らざるをえない場合が多いので、みんなで決めた評価規準が重要となる。その際、留意すべき点は、「~ができ/~ができない」ではなく、「~しようとしている/~をしている」のように、プロセス評価を重視しよう。なぜなら、コミュニケーション力は一夜にして身につくものではないからである。


したがって、通知表などには、例えば「Let's go shopping.の活動を通して、自分の気持ちや思いを積極的に伝えていました。最近は、ALTとのコミュニケーションを大いに楽しんでおり、通じる喜びを知るとともに、自分自身の自主的な言動に自信をつけてきました」などのように、活動を通して子どもの伸張した資質・能力を具体的に記述するとよいであろう。

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2006.vol.52 11月号(通巻623号)


どうする?小学校英語 第21回

英語活動の指導案作成と実施上の留意点


本年三月号と七月号では、地域で小学校からの英語教育を推進する際の意義と教育理念について、[1]日本の国際教育、[2]小中連携における外国語教育の両視点から概観した。また、[3]その教育理念を軸に英語活動で育てたい子ども教育像、[4]その教育成果の説明責任を果たすために必要な評価規準(到達目標)を作成することの重要性についても述べた。
今回は、[1]~[4]の内容を重視しながら指導案を作成する際の留意事項について述べる。


(1) まず、地域や学校で作成する指導案は「英語活動指導案」であって、英語を学習するための「英語学習指導案」ではない。実は、中学校外国語科の場合も、正しくは「英語活動指導案」である。なぜなら、一九六九年以降、その教科内容は「学習活動」ではなく「言語活動」と規定されているからである。また、英語そのものを学習する指導案では、子どもの英語ぎらいと英語の学力差、そして塾通いを促す原因となりうるであろう。


(2) 次に、その英語活動指導案には、必ず「本時のねらい」と「本時の評価規準」を明示しよう。
●ねらいの書き方...... 「Do you have ~?の使い方に慣れる」のように、言語そのものを習得することをねらいとするのではなく、例えば、この場合であれば「相手に物を借りるQ&A活動を通して、互いの意思を伝え合う」のように、あくまでもコミュニケーション重視の教育観を大切にしよう。なぜなら、児童が卒業後に進む中学校外国語科のねらいも、コミュニケーション力(資質・能力)を身につけることにあるからである。
●本時の評価規準の示し方...... 「(~という場面の中で) Do you have ~? の表現を用いたQ&A活動を通して、互いに自分の気持ちを伝え合っている」のように、具体的に記述する必要がある。なぜなら、コミュニケーション力を見取るためには、場面とその場面での言語の働き(機能)を明示することは必須であり、そのような具体的な状況の中で、はじめて本時のねらいを全うしているかどうかをチェックできるからである。


なお、評価規準は「~(を)している」のように、プロセス評価で子どもの変容を見取ることが重要である。コミュニケーション力は、短期間では身につきにくい資質・能力だからである。ちなみに文科省が示す、小中九年間の国語教育の評価規準の文末も、進行形で明示されている。


(3) 本時の評価規準は、活動案の「児童の活動」欄にも記号などで明示する必要がある。その記述があれば、どの活動の場面で子どもの変容ぶりを見取ればよいかが容易に理解できるからである。またそうすることで、活動案を作成する担任にとっても、子どものどのような資質・能力(学力)を育てようとしているかを確認できる。さらには、到達目標である評価規準を明示することで、具体的な指導のあり方と方法との関連性を重視した、いわゆる「指導と評価の一体化」の教育を推進することができる。したがって、このような一連の教育観に基づく指導案づくりは、指導案を作成する担当教員の資質向上につながるだけでなく、教育成果の説明責任を果たすうえでも必須であるといえよう。


(4) さいごに、ねらいと評価規準が明示された英語活動案をもとに授業を行ったら、必ずその教育成果についてチェックしよう。とりわけ地域での英語活動に関する研修では、いわゆるベンチマーク訓練を行う必要がある。ベンチマークとは「評価判断の基準」のことで、ここでは評価規準のことを指す。実施した授業は「ねらいと全うする活動であったかどうか」、明示された評価規準によれば「ほとんどの子どもは『おおむね満足』であったのか」について協議する「指導と評価の一体化」に関する教員研修が大切である。

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2006.vol.52 9月号(通巻621号)


どうする?小学校英語 第20回

到達目標に準拠したカリキュラムを開発しよう!


地域で推進する小学校からの英語教育ついて、前回(三月号)は、国際教育の意義と小中連携における外国語(英語)教育の意義の両視点から、その教育理念を概観した。

では、その理念を軸に英語活動(英語によるコミュニケーション活動)のカリキュラムを開発する際、まず、地域で育てたい子ども教育像を明示しよう。例えば、「だれとでも主体的にかかわろうとする子ども」や「自分で決定し、自分で行動する子ども」像などが考えられる。これらは、英語活動の内容しだいで育まれる資質・能力であるとともに、文科省が推進する国際教育や「生きる力」の教育で求めている子ども教育でもある。

次に、その子ども像を意識しながら、小中連携の英語活動を通して育みたい具体的な教育目標を設定しよう。小学校の目標としては、例えば「英語活動を通して、言語や文化に関心を持ち親しむとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を身につけ、聞いたり話したりする言語活動を中心に、気持ちや思いなどを相手に伝え合う実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」などが考えられる。これは、本年三月末に公表された中教審外国語専門部会の報告書の内容とほぼ同じである。

小中連携の全体目標をつくり終えたら、具体的な活動内容を開発するわけであるが、同時に、小中の到達目標(評価規準)も仮設定しよう。なぜなら、この到達目標が明示されないと、その地域の教育成果の説明責任を果たせないからである。また、この評価規準がないと活動内容の開発もむずかしい。週一回程度の授業時数で、しかも自閉症児もいる公教育において、「何を育てたい内容とするか」は、単元などの到達目標に左右されるからである。

教育は、単に子どもを指導すればよいというものではない。「教育は、評価に始まり、評価に終わるべし」といわれるように、子どもの変容を見取る教育観を出発点とすべきである。その小学校英語活動における到達目標の参考例として、筆者が平成十七年度より支援している東京都豊島区小中連携英語教育改革の小学校の評価規準を左に示す。なお、中学校の規準は、国立教育政策研究所が作成したものに準拠すればよいであろう。

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以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2006.vol.52 7月号(通巻619号)


どうする?小学校英語 第19回

特集 ●幼小連携・小中連携の現状と課題


英語を中心にした小中連携の現状と課題


要旨
★ 平成四年度から行ってきた小学校の英語活動(英語によるコミュニケーション活動)で得た成果とは、英語のスキル習得と定着をねらいとするのではなく、「ALTと一緒に楽しく英語活動に取り組んだ子どもたちのほとんどは、外国人と臆することなくコミュニケーションをとることができるようになり、ほかの授業にも好影響を与えた」ということであった。この積極性は、国際化の進むなか、これからの日本人に必要な資質である。
★ 中学校では、小学校での英語によるコミュニケーション活動を踏まえ、実践的なコミュニケーションをいままで以上に実施していくことである。

本稿では、義務教育としての小学校からの英語教育と国際教育の意義、そして中学校における国際教育の一環としての英語教育との小中連携の意義を踏まえ、その現状と課題、および今後期待できることと期待したいことについて述べる。具体的には、これまでの全国の小学校英語活動で得た知見と、東京都北区の「英語が使える北区人」事業における、小中連携の英語教育の指導を通して得た知見をもとに考察する。


1 小学校からの英語教育と国際教育の意義
(1) 「英語力のある国際人の育成」
国際化が進展している日本ではあるが、日常、英語で買い物をするわけでもない。では、なぜ小学校から英語教育を開始するのか。
この教育課題はそもそも、いまから三十年以上も前に経済界・産業界より出された要望がきっかけである。その一つに、二〇〇四年三月の文科省主催の英語フォーラムでの基調講演で、IBM会長は、小学校段階から英語教育を開始し、その中から五%程度(約三五万人)の英語力のある国際人が育つことを望んでいると述べている。天然資源の乏しい日本が国際社会で生き抜くためには、そのような人材が必要だということである。
しかしながら、全国民を英語の達人にする必要もない。この点については、これまで文科省も悩んできたはずである。なぜなら、義務教育としての基礎基本を身につけることがほかにもあるからである。また、公立の小学校にはさまざまな障害を抱えた配慮児童もいる。例えば、東京都内のある小学校の第四学年には、軽度も含めると約四割の特別支援児童がいるとのこと。したがって、教育の機会均等という考え方を重視し、小学校からの英語教育を全国の二万二千余の全小学校で行うとなれば、そのような児童への配慮も含めた全体目標と具体的な到達目標(評価規準)を設定し、さまざまな条件整備をしたうえで「小学校から始めてよかった」と言える教育をする必要がある。


(2) 小学校から英語教育を行う意義
では、そのような教育とはいったいどのようなものであろうか。小学校段階から英語教育を始める意義とは何だろうか。
その答えは、小学校英語教育のこれまでの成果の中に見いだすことができる。平成四年度から行ってきた小学校の英語活動(英語によるコミュニケーション活動)は、当初は前記の経済界の要望にも応えるための実験であった。しかし、そこで得た十数年間の成果のエッセンスとは、英語のスキル習得と定着をねらいとするのではなく、「ALTと一緒に楽しく英語活動に取り組んだ子どもたちのほとんどは、外国人と臆することなくコミュニケーションをとることができるようになった。寡黙な子は活発に、コミュニケーションに困難がある子もお気に入りのALTと口をきくようになった」ということであった。
筆者自身は、寡黙な子が活発に変容することはある程度予測していたが、コミュニケーションに困難がある子の変容ぶりを初めて見たときはわが目を疑った(筆者はこれまでに五件遭遇)。彼らがALTと口をきくシーンを見たとき、彼らの「生きる力」そのものを見た思いがした。この種の力は、文科省が国際教育で推進している「自己決定・行動力」、「個の確立」、「共生」の育みにもつながるきっかけになるであろう。なぜなら、英語活動で積極的に自己発信できる子どもは、ほかの授業にも積極的に取り組むようになったからである。したがって、英語を習得することを目標とする活動ではなく、子どもたちの心的発達に応じたトピックを尊重したカリキュラムによるALTとの英語活動では、子どもたちの目は輝き、国際教育の目標や生きる力の教育のねらいをまっとうする結果につながることを認識しておく必要がある。


(3) ねらいはコミュニケーション力と国際理解・日本理解
その意味では、昨年三月二七日に文科省が公表した中教審外国語専門部会のレポートは、これまでの成果を重視した内容であった。そのレポートによれば、小学校段階の英語教育は「国語や我が国の文化も含め、言語や文化に対する理解を深めるとともに、ALTや留学生などの外国人との交流を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、国際理解を深めることを重視する」という考え方である。英語のスキル習得より、このような国際感覚を重視した学力観に基づく小学校英語教育なら、「小学校から始めてよかった」と言える教育が成立しそうである。なぜなら、「主体性」の育みにつながるこの「積極性」は、人が生きるうえで重要な資質でありながら、国際的な場では積極的にコミュニケーションを図る態度に欠ける日本人が多いからである。


2 小中連携の英語教育と現状の課題
(1) 小中連携の現状と課題
まず国際教育の一環としての中学校外国語科の目標と教科内容について、学習指導要領で確認しておこう。
●中学校外国語科の目標:「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すことなどの、実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」(※~は筆者の付記)
●教科内容:おもに「言語活動」(一九六九年の改訂以前は、「学習活動」が教科内容であった)
 この~の文言を重視しながら、小中連携の現状と課題について考察してみよう。
中学校の外国語教育では、に示すとおり、外国語はコミュニケーションのツールとしてとらえている。またについては、次の学習指導要領では、「言語と文化」を新設し、今後は日本文化を発信するコミュニケーション重視の教育をよりいっそう強化する考えのようである。これは、まさに国際教育の推進課題である。 さらに、の「積極性(資質)」の育みについては、これまで思春期の中学生には困難な壁であったが、今後はALTなどとの相互交流を重視した国際教育観に根ざした小学校英語教育の成果が期待できる。
 の領域については、「読み書き」の言語活動よりも音声中心のコミュニケーション活動を強調している。しかしながら、中学校英語教育の実態の多くは、まだまだ「読み書き」中心の語学教育が続いているといわざるをえない。そのわりには、英語構造に関する知識・理解においても課題を抱える生徒が多い。その原因の一つに、平成十年度より必修科目にした関係上、授業時数が減ったことも影響しているといえよう。このことは、今後の教育政策上の重要な課題となりつつある。
 最後に、の実践的コミュニケーション能力の育成については、今後、小学校における音声重視のコミュニケーション活動で英語音に耳慣れる子や、日常会話において英語で臆することなく堂々とコミュニケーションを図る子が増えるので、中学校ではそのことを踏まえて、意味のある実践的コミュニケーション活動をいままで以上に意識して実施する必要がある。英語の構造理解を中心とした学習活動ばかり行っていると、英語ぎらいが増えるだけである。このことは、今後の中学校の英語教育に期待したい改善事項である。


(2) 小中教員の教育観の相違が大きな壁
現在、筆者が支援中の東京都北区では、教育改革の一環として、二〇〇四年度より、「英語が使える北区人事業」を推進している。本事業の同委員会では、小学校英語活動の目標と評価規準を策定するとともに、モデルカリキュラムも開発。小一から全学年全学級にALTを年間二十時間配置するとともに、「総合的な学習の時間」などの利用により、年間四十時間の英語活動をめざしている。また平成十七年度からは、次に示す教育目標を達成するために、文科省指定小学校英語活動地域サポート事業も推進している。


北区小学校英語活動目標:「日本や外国の生活・文化を理解するとともに、英語に対する興味・関心をもち、外国の人々との積極的なコミュニケーション活動を通して、自分の気持ちや思いを発信する子どもを育成する」
 ここでは、二〇〇六年十一月二日に行われた小中連携「英語活動」の説明責任を果たすための検証授業(表1参照)を振り返りながら、その現状と課題について述べる。
 一般に小学校教員は、一人一人の子どもの「人間性」を重視しながら児童を育てる教育観が強いので、英語活動の成果も人間性重視の視点から子どもの変容ぶりを評価する。したがって、北区では子どもの興味・関心を重視し、コミュニケーションには不可欠な「自己決定・行動力」を育むための教育内容や言語活動のあり方を開発した。一方、中学校教員は、教科を通して生徒を見る習慣があるため、生徒の英語スキルの習得状況を評価する教育観が強い。したがって、教科書をベースに、どちらかと言えば英語という言語構造の理解を中心とする学習活動を行う傾向がある。まず、この子どもの変容を見取る教育評価観とのギャップを埋めるための教育改善に取り組む必要がある。
 そこで北区では、このたび小中教員が協同して特別なシラバス(表1参照)を開発し検証授業を行った。表1の指導案は、小学校4年生と中学校三年生の合同授業のときのものである。小学校では五時間扱いの三時間目まで独自に進め、四時間目で小中が合流。中学校ではこの四時間目で行った活動をさらに発展させて五時間目で完結した。
 ここで最も留意したことは、小中の子どもの心的発達を考慮し、トピックを選定したあと、小中共通の活動のねらいと到達目標である評価規準をどう策定するかであった(表1参照)。なぜなら、中学校では高校入試対策の一環として、おもに語彙や文法などの習得をめざしている。しかしながら、小学校英語活動では、おもに「外国の人と積極的にコミュニケーションを図る態度」の育成をねらいとしている。この積極性は国際教育で求めている「自己決定・行動力」の主要素である。つまり国際感覚の一つである。小中のギャップを埋めるためには、このように小中合同授業を継続し、外国語教育は国際教育の一環であることの認識を互いに深める必要がある。
 ちなみに、本授業では小中のほとんどの子どもの目が輝いており、指導案の到達目標をおおむね達成していたといえよう。中学生が小学生を優しく思いやる「共生」の場面を何度も見ることができ、心に残る英語活動であった。


表1 小中連携英語活動指導案
1. 活動名
「好きな物は?」 (5時間扱いの4時間目 / 活動時間 45分)
2.本時の目標
(小学校4年生)英語に親しみ、相手の思いを大切にして、進んでコミュニケーションを楽しむ。
(中学校3年生)慣れ親しんだ英語を使って、相手の思いを大切にし、積極に英語によるコミュニケーションを楽しむ。
3.評価規準
6の授業の流れ内の☆印(小学校の到達目標)と★印(中学校の到達目標)を参照。
4.準備物
食べ物カード(二つ折りクリップ止め)、インタビューカード、ピクチャーカード(食べ物、動物、月、色、スポーツ)、動物カード 16種類×グループ数
5.言語材料
What's your name? My name is ~.
What [food/color/sports/animal/month] do you like? I like ~.
(中学生は、次の表現も発信)
Oh! You like ~. Me, too. He likes ~. His name is ~. / What's this? It's ~.

6.JPG

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2006.vol.53 2月号(通巻626号)


どうする?小学校英語 第18回

今後、小学校英語教育を実施するうえでの留意点は何か


地域や自校で英語教育を実施する際、その全体目標や具体的な到達目標を設定し、教育成果の説明責任を果たす必要がある。その際、次の点に留意しながら進めよう。


小中とも教育内容は「言語(英語)活動」
今後の小学校英語教育は、小中連携で推進する必要がある。中学校に、教科としての英語があるからである。その中学校外国語科の教育目標は、次のとおりである。


「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」


また、中学校外国語科の教科内容は、一九六八年までは、単語や文法を身につけるための「学習活動」であったが、一九六九年の学習指導要領改訂以来、「言語活動」と規定されている。三六年間「英語によるコミュニケーション力(資質・能力)」を養うことが目標とされている。したがって、小学校の場合も「英語学習活動」とするのではなく、「英語活動」とすることが望ましい。


●小学校英語活動の成果を重視しよう
ところで、これまで小学校でALTなどとのコミュニケーション活動を通して培われた「英語によるコミュニケーション力」とは、いったい何であったろうか。
それは、第一に、多くの子どもたちが「外国の人と臆することなく(ときには、積極的に)、コミュニケーションを図ろうとする態度」(意欲という資質)を身につけたことである。これは、中学校外国語科の二つめの目標に該当する。したがって、この点だけを考えても、小中連携で英語教育を推進する必要性が理解できよう。
ちなみに、筆者が副座長を務めた『小学校英語活動実践の手引き』(文科省、ニ〇〇一年)では、児童の「意欲」をとりわけ重視した。意欲がないと、諸能力を身につけることもむずかしいからである。また、「英語学習実践」ではなく、「英語活動実践」としたのも、「英語そのものを身につけるための学習活動」ではなく、「英語によるコミュニケーション力を身につけるための実際的体験活動」を通して、子どもが変容したことを重視したからである。したがって、この「英語活動」という表現は「英語によるコミュニケーション活動」の縮約形で、中学校・高等学校の外国語科の教科内容である「言語(英語)活動」と同義である。
次に、「聞くこと」の成果については、低学年などの右脳発達時期は、自然に他言語を受け入れることができた。また、「話すこと」においても、左脳が発達する高学年では、その心的発達の特徴を生かし、「自己発信型コミュニケーション」重視の活動をすることにより、子どもたちのinitiative(自己決定・自己行動力)が育まれた。これは、国語教育で求められている「伝え合う力」の育成につながるものである。さらには、活動内容によっては、自国文化と他国文化の違いに関する認識、共生(思いやり)などの基礎も英語活動で養われた。とりわけ、「自己決定・自己行動力」は、今後、文科省が国際教育政策として要請する「自らの考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力」につながる(参照:『初等中等教育における国際教育推進検討委員会報告』文科省、ニ〇〇五年)。
最後に、実施の際は、必ず「到達目標に準拠した指導と評価の一体化」に心がけよう。そして、評価は中長期スパンで、子どもの変容を見取るプロセス評価を重視しよう。コミュニケーション力は、そう簡単には身につかないからである。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2006.vol.52 1月号(通巻613号)


どうする?小学校英語 第17回

コミュニケーション活動を通して、子どもの「主体性」を育もう!


日本の小学校からの英語教育はどうあるべきか。この問題は、教育特区をはじめ、多くの地域で自主的に施行する教育課題の一つとなっている。例えば、筆者が支援している政令指定都市さいたま市でも、特区として平成二十年度から、小学校100校、中学校56校の計156校で小中一貫の英語教育が行われるが、小学校五年生から中学校三年生までの五年間の英語教育を通して、義務教育としてどのような資質・能力を育めばよいのか、慎重に議論しながら進めている。そこで、今回はこの問題について論じてみたい。


英語嫌い
今夏、ある英語教育学会の全国大会に出席した。そこで、平成十七年度より中学校の英語検定教科書を小学校の高学年で使用し、英語学習を行っている地域の実態報告を聞く機会を得た。その際、報告されたアンケート結果から、すでに20%強の高学年の児童が「英語の時間は楽しくない」と回答している実態を知った。これは、大きな問題である。なぜなら、五人に一人の児童が、すでに小学校段階で英語嫌いを訴えているからである。
日本の義務教育では、知識や技術に偏ることなく、人間性を全面的・調和的に発展させるための全人教育を行っている。しかも、現在、子どもの「生きる力(zest for living)」を培う教育をしている。このzestとは、「意欲」のことであり、その意欲を削ぐような英語教育をしているとしたら、しかも20%強の中に不登校児や自閉症児、寡黙な子どもがいるとしたらなおさら問題である。その子らは、見放されることになるからである。
この英語嫌いの問題は、韓国や中国の小学校の英語教育において、すでに大きな課題となっている。両国では、国定教科書を用いて英語を習得するための学習を行っている。予算の都合上、指導者の多くが英語圏の人々ではないことと、英語学習が中心であるため、子どもの「英語嫌い」と「英語塾通い」を招いており、政策上の課題となっている(詳細は、拙稿「技術指導に特化する中韓の英語」『エコノミスト』2005年6月号、73~74頁)。


●意欲と主体性を重視しよう!
では、日本の小学校では、どのような英語教育が望ましいのであろうか。まず、これまでの小学校英語活動の実際的研究結果から得られた知見を重視した英語教育を行うべきである。具体的には、大人の勝手なやらせではなく、子どもの「したい」「言いたい」ことを尊重した教育を行った学校では、ALTとの楽しいコミュニケーション活動を通して、「寡黙な子が活発に、不登校児や自閉症児がお気に入りのALTと臆することなく楽しく会話する」という知見を得た。これは、まさに「生きる力」に通じる教育成果である。おそらく、検定教科書を用いた英語学習では、そのような子どもの実態を見ることはできないであろう。
次に、中・高等学校の学習指導要領外国語科の目標が示すとおり、小学校でも、実践的コミュニケーション力(資質・能力)の基礎を養うべきである。したがって、その活動内容も、中高の教科内容と同様に単語や文法などを学ぶための「学習活動」ではなく、実践的コミュニケーション力を養うための「言語活動」を行うべきである。そして、そのコミュニケーション重視の言語活動を通して、一人一人の子どもの「主体性(=identity)を培う教育を行いたい。実は、ALTとのTTにより楽しい体験活動では、常に自己の主体性を発揮することが求められるので、子どものinitiative(自己決定・自己行動する力)が自然に育まれる。このinitiativeは、文科省の国際教育のねらいでもある。したがって、小学校からの英語教育は、「生きる力」の源泉でもある「意欲(zest)」と、国際教育で求められている「主体性」を重視した、コミュニケーション力養成のための教育を第一義として行うべきである。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2005.vol.51 11月号(通巻611号)


どうする?小学校英語 第16回

小中連携の英語教育における課題


先日、ある地域において小中連携の英語教育推進のための研修会が開かれた。その日は、小学校の担任が四年生を対象にALTとTTによる授業を行った。いつものように、本時のねらいと到達目標(=評価規準)を意識したコミュニケーション活動が展開された。ちなみに、その日の英語活動の評価規準は「○○ゲームを通して、ALTに自分の思いを伝える」という、コミュニケーション力育成にかかわるものであった。
授業後の研究協議会で、中学校のA英語教員から次のような発言が飛び出した。「子どもの英語の発音や文法面で誤りがあっても訂正しないのですか」また、B教員からは「本時での英語活動を見る限り、子どもの目は輝いていてすばらしい!ただ、遊びだから楽しくなれるのでは......。中学校では英語を学習しており、その意味で、私たちは教育をしている。それから、小学校段階から英語を始めると、子どもは中学校へ入学後、英語が嫌いになるので困る」という意見が聞かれた。


●小・中に共通する目標


このような発言内容には、今後解決しなければならない、いくつかの課題が含まれている。まずA教員の発言については、英語活動における本時の到達目標とのかかわりにおいて語るべき問題である。本時では「子どもがALTに自分の思いを伝えていたか」というコミュニケーション力育成にかかわるパフォーマンス評価規準がポイントであったが、A教員の場合、到達目標より英語学習上の小さな誤りが気になったようである。


次にB教員の発言からは、中学校には今でも「英語そのものを学習することが目標」だと思っている教員がいるということが明らかになった。実は、中学校外国語科の目標は、「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」となっており、その教科内容は主に「言語活動」である。中学校学習指導要領外国語科では昭和四四年度の改訂時に、目標をそれまでの教科内容である語句や文法などの言語材料を身につけるための「学習活動」から、コミュニケーション重視の「言語活動」に変更した。あれから三六年も経過しているにもかかわらず、あまり変わっていないということである。


したがって、小学校における英語活動(=英語によるコミュニケーション活動)は、本来中学校外国語科で求められている「言語活動」そのものであるべきである。そして、小学校英語教育の主なねらいは、子どもの興味・関心を軸に編成されたコミュニケーション活動を通して、当然の結果として育まれる子どもの「積極性や主体性」の育成を第一義とすべきであろう。なぜなら、これは、現在わが国の義務教育で育まねばならない学力の一つであり、国際教育でも求められている基礎基本の資質だからである。


小学校における英語活動を通して、子どもたちは異国の文化に生まれ育った人々とふれあい、英語が通じる喜びやコミュニケーションすることの楽しさを知る。子どもたちは、ALTとの真のコミュニケーションを通して異文化体験を積み、これまでの教科中心の教育とは異なった環境の中で、自己発見・自己実現をするものである。例えば、不登校児や自閉症児は、お気に入りのALTとの楽しく豊かなコミュニケーション活動において自己を発揮する。これは明らかに今までの教育では見られなかったことであり、その意味ではまったく新しい教育の風が吹いているといえよう。したがって、中学校の外国語科でもALTなどとの真のコミュニケーションの場をこれまで以上に多く設定しないと、今後ますます英語嫌いの生徒が増えつづけるかもしれない。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2005.vol.51 9月号(通巻609号)


どうする?小学校英語 第15回

小中連携の英語教育で育むべき資質・能力とは?


今、日本の初等中等教育界では、あらためて「学力とは何か」が議論されている。そんな中、教育特区をはじめとするいくつかの地域では、「子どもに身に付けてほしい学力」を真剣に考え、説明責任を果たすべき独創的な教育を推進している。例えば、現在、筆者が支援している品川区・成田市・さいたま市(いずれも特区)、北区、三鷹市では、小中一貫あるいは小中連携教育に積極的に取り組んでいる。まことに好ましいことである。


そして、この五地域ではいずれも小学校から英語を取り入れた教育改革を行っている。七~九年間という長いスパンの英語教育で「子どものどのような資質・能力(学力)を育むべきか」と検討。指導指針だけではなく到達目標となる評価規準を作成して改革に取り組んでいる。この小中連携の教育改革に英語教育を導入したわけは、国際化の進展に対応するためである。その国際教育では、今、「主体的」に生きていく資質や能力の育成が求められている。実は、小学校の英語活動(英語によるコミュニケーション活動)を通して、主体性の源である「積極性」が育まれることが明らかになっており期待されている。


このような改革は、中学との連携教育を考えるうえでもたいへん意義深い。というのも、週平均三時間の授業を三年間実施する程度の中学校の英語教育の現状では、外国語科が掲げる実践的コミュニケーション力(とりわけ、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度と技能)育成のための到達目標を全うするのは難しいことがわかり始めているからである。このことは、平成十三年度と十五年度に行った文科省の教育課程実施状況調査(中学校英語)の記述式問題の分析結果からも明らかになった。例えば、「自分の好きな~について、四文以上のまとまり(一貫性)のある文章で記述」する問いの正答率はきわめてよくない状況で、生徒の「発信しようとする意欲と論理的に伝える力」に欠けていることが明らかになった。
ということは、今後も続く週五日制の日本の教育事情を考えると、中学校卒業時に求められている到達目標(評価規準)を達成するには、日本の英語教育は小学校段階から実施することを考える必要性があるといえよう。その際、中学校の英語教育も小学校のように「言語(英語)活動」を徹底して行うべきである。文科省は一九六九年の学習指導要領改訂時に、中高の外国語科の教科内容を「学習活動」から「言語活動」に変更した。なぜなら、単語や文法などの言語材料の知識を身に付けることを目標とする学習活動をしていても、実践的コミュニケーション力は身に付かないからである。


●積極性・主体性の育成を重視しよう


ところで、小中連携の英語教育では、児童は中学校の評価規準で求められている言語のルールに関する「正確さ」を重視する必要はない。そのわけは、われわれが母語を習得する過程を考えれば一目瞭然である。私たちは小学校入学前までに、母国語の発音や文法上の誤りなど気にもとめずに音声言語による生活上のコミュニケーション力をおおむね身に付ける。現行の中学校からの英語教育では、これに相当する時期がないまま、最初から「正確さ」が求められるという不自然なことが行われている。したがって、児童期では、むしろコミュニケーションを楽しみ、積極的にコミュニケーションを図ることを主眼とすべきである。なぜなら、ALT等との楽しい体験活動を通して育まれる「主体性」(「生きる力」の源泉であるとともに、国際教育で求める中核的資質・能力)を重視すべきだからである。また、その「主体性」は、国語教育で求められている「伝え合う力」の源であるとともに、中学校外国語科で求めていながら身に付きにくい資質・能力の基礎・基本だからである。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2005.vol.51 7月号(通巻607号)


どうする?小学校英語 第14回

小学校の英語教育では、子どもの何を育むべきか?


日本の小学校における英語教育では、子どもの何を育むべきであろうか。
この問題は小学校英語教育の目標と内容にも関連するので、みんなで真剣に討議すべきである。


●英語活動の成果と小中連携の到達目標を考慮しよう!
まず、第一義として考慮すべきことは、平成四年度から実施された日本における小学校英語の実際的先行研究の成果である。なぜなら、その成果とは子どもがもたらしてくれた貴重な知見だからである。
次に、小中連携の教育観で日本の英語教育のあり方についても考えよう。なぜなら、義務教育は九年間だからである。それに、『中学校学習指導要領:外国語学科』がめざす教科目標を全うするには、週平均三時間の授業を三年間行うだけでは足りないからである。このことは、到達目標(評価規準)に準拠した授業をすることで、おおむね明らかになったのではなかろうか。とりわけ、教科目標(2)の積極的・主体的なコミュニケーション力(資質としての学力)は、中学校の三か年教育だけでは身につきにくいと言えよう。


○中学校外国語科目標-「外国語を通じて、(1)言語や文化に対する理解を深め、(2)積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、(3)聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。」(番号は筆者による。)

○主な教科内容:「聞く・話す・読む・書くこと」の「言語活動」(一九六九年度の告示より。それ以前は「言語材料」を学ぶための「学習活動」と明示。)


●子どもが「自ら己を育む力」を大切にしよう!
では、これまでの公立小学校における英語活動の最大の成果とは何だったのであろうか。
小学校の英語教育で"やらせ"ではなく、子どもの「主体性」を重視したコミュニケーション体験活動を実施した学校では、寡黙な子どもが活発に、不登校児がALTとの楽しい活動にだけ参加したり、自閉症児がALTとだけ話をしたりするという知見を得た。これらは、いずれも彼らの「生きる力」の現れであり、自身の中に「挑戦する心」が育まれた証拠だといえよう。
これは、ペーパーテストでは測定しにくいが、明らかに「学ぶ力(意欲)」である。たとえ、英語の発音や表現が正確でなくても、ALTと自ら(ときには、積極的)コミュニケーションを交わす姿は、「学ぶ力」そのものである。
小学校英語教育の目標や内容について考えるとき、この全人教育の根幹にもつながる学力が育まれることを最も大切にしたいものである。
しかもこの成果は、中学校外国語科がめざす(2)の目標(積極的にコミュニケーションを図る態度の育成)を全うするといえよう。現代の教育課題の一つとして求められている「関心・意欲」という学力が、英語によるコミュニケーション活動でも培われることを素直に認め、ともに喜びたいものである。
したがって、このようにすばらしい教育成果が得られることを無視して、大人の勝手な発想で単に単語や文型の定着を目標に覚えたり練習したりする英語教育だけは避けたいものである。
なぜなら、そのような授業では子どもの目は輝かなくなっており、何のために行っているのか理解できなくなるからである。
記述したように、中学校外国語科の主なねらいは、外国語を通して「実践的なコミュニケーション力(資質・能力)」を養うことである。しかも、教科内容は「言語活動」であって、理科や社会科のような内容教科で求められる「学習活動」ではない。
つまり、ねらいは英語そのものの勉強や学習することではないのである。したがって、小学校英語教育の目標と内容もその点に留意して決めよう。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2005.vol.51 5月号(通巻605号)


どうする?小学校英語 第13回

小中連携の英語教育における到達目標設定時の留意事項


今、日本の各地で九年間という小中連携の英語教育に取り組んでいるところが増え始めている。そこで本稿では、そのような小中連携の教育改革において英語教育の到達目標を設定する際の基本的留意事項について、教育的説明責任の観点から述べてみたい。


●実際の教育成果を重視しよう!
日本の英語教育は、授業時数が少ないだけに現行の中学校から始めるよりも小学校から始めたほうが効果的である。なぜなら、これまで多くの小学校が取り組んできた小学校英語の成果がその答えを出してくれているからである。やらせではなく、子どもの「したいこと」「言いたいこと」つまり、子どもの「主体性」を重視した教育を行った学校では、外国人に対して臆することなく(ときには、自ら積極的に)コミュニケーションを図れる子どもが育っている。一般に、外国人(特に、西洋人)と接するとき、大人ですら臆する態度の日本人が多いだけに、たいへん意義深く価値がある教育成果であるといえよう。
この成果は、中学校外国語科の目標の一つである「外国語を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り」の資質としてのコミュニケーション力と一致する。したがって、小学校からこの資質の基礎が培われるのであれば、中学校では、技能の習得を中心とした教育課程の編成と実施に集中すればよいことになる。


●小中連携の英語教育の到達目標を設定する際の基本的留意事項

(1) 中学校外国語科の目標を正しく理解する。その目標とは、「外国語を通して、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」である。小学校段階では、これまでの成果から二つめの態度の育成が主な目標となるであろう。

(2) 教科の内容は言語活動であることを認識しよう。中高等学校の外国語科の教科内容は言語活動である。その言語(英語)活動には、「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」がある。そして、この四領域の言語活動を通して、(1)の目標を全うする。このうち、小学校段階では、「聞くこと」と「話すこと」の言語活動が中心となるであろう。その際、実際のコミュニケーション体験活動を軸とすることが基本である。

(3) 以上のことをベースに、児童の発達段階や音声言語によるコミュニケーションの体験(習熟)状況に応じて段階的な到達目標(評価規準)を設定する。その際、評価の観点とその趣旨を作成するとともに、実施時数や指導体制などの条件整備を考慮した上で規準内容を決める。また、最初からハードルの高い規準は設定しないほうがよい。期待する成果が得られないことがあるからである。

(4) 小学校段階の規準は、「ALTと積極的にコミュニケーションを図ろうとしている」「自分の気持ちや考えを伝えている」などのように進行形で記す。中学校外国語科の規準のように「~できる」としにくい。コミュニケーション力は、少ない体験で誰もが簡単に「できる」と判断しにくい資質・能力だからである。九年間の体験を経て「できる」状態になればよい。したがって、国立教育政策研究所が作成した国語科の評価規準においても、すべて「~している」と規定している。つまり、学習者の学習プロセス評価を重視する。

(5) 評価規準は、具体的な到達目標を示す。したがって、その規準は、「言語活動の内容が抽象度の高い全体目標を全うしているか」どうかをチェックできる文言とする。

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2005.vol.51 3月号(通巻603号)

どうする?小学校英語 第12回

目標-活動-評価規準の三位一体に拠る英語活動を!


最近、「小学校における英語教育では何をすべきか」「英語活動を通して子どもの何を育めばよいのか」がわからなくなったという相談をよく受ける。英語活動を始めて数年たった学校が抱える共通問題のようだ。平成十四年度以降、英語活動に取り組んでいる学校が増えた証拠でもある。それにしても週に一回も実施できない状況下で、目的がわからなくなったというのが本音のようである。
このような疑問の主要因として二つ考えられる。一つは、広い視野やコミュニケーション力等の養成をめざす英語活動は、その成果が急には見えない分野だということ。もう一つは、短期間では見えにくい成果のせいか、具体的な到達目標(評価規準)をもたずに実施していること。
このような問題は地域で始める教育改革の場合、重要な課題となる。なぜなら、公的な改革事業のゆえ、説明責任を果たさねばならないからである。したがって、ただ単に実施すればよいというわけにはいかない。筆者が支援している品川区の小中一貫教育改革における英語科の場合、次のようなコンセプトに基づいて改革が進められている。


○品川区英語科教育課程のメインコンセプト
(1)第一~第四学年「英語でのコミュニケーションに親しむ。」
(2)第五~七学年「英語でのコミュニケーション力を身に付ける。」
(3)第八~九学年「英語でのコミュニケーション力を活用する。」


○品川区英語科の全体目標
英語活動を通じて
「[1]言語や文化に興味・関心を持たせるとともに理解を深める(いろいろな人々とのコミュニケーションを通して、世界の言語、社会、文化への興味・関心・理解を深め、広い視野を育む)。
[2]積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る(積極的なコミュニケーション活動を通して、イニシャティヴ【だれにも言われなくても自分で決定し、自分で行動する力】を育む。すなわち、国際教育で求められている主体性を育み、個の確立を図る。)
[3]聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う(児童生徒の主体性と体験重視の活動を通して実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。)」
日本の国際教育では、国際化の進展に対応するために「広い視野とイニシャティヴ」の育成が求められている。これらは「生きる力」を育むうえにおいても重要な基礎的資質・能力であり、九年間という小中一貫教育においてこそ実現化されるという考えに基づいている。


○英語科の全体目標と品川区の小中一貫教育で重点的に育成したい諸能力との関連性既述の全体目標[1]~[3]の内容は、次の諸能力の育みに通じるものとしてとらえている。
[1]について:状況判断能力、知的探求能力、問題解決能力など。
[2]について:自己形成能力、自己表現能力、自己コントロール能力。
[3]について:自己形成能力、自己表現能力、自己コントロール能力、状況判断能力、知的探求能力、問題解決能力など。
品川区英語科教育課程では、以上のコンセプトをもとに、第一~第二学年、第三~第四学年、第五~第七学年、そして第八~第九学年ごとのくわしい目標も揚げている。また、これらの目標を全うする活動案をチェックするための品川区英語科の評価基準(案)も作成済みである。新教育改革事業の説明責任を果たすために、各学校では自校で開発する英語活動のカリキュラムを、この評価規準を用いて評価する必要があるからである。また学校の外部評価も、この評価規準を用いれば評価する側もされる側も納得できる。その意味でも、評価規準は重要な役割を果たす。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2005.vol.51 1月号(通巻601号)


どうする?小学校英語 第11回

説明責任が果たせる英語活動を!


文科省の調査によれば、平成十五年度に英語活動を実施した小学校は、全公立小の八八・三%と高い。しかし、その実態はさまざまである。そのような状況の中、八月下旬、文科省より「これからの義務教育の役割や最終到達目標の明確化」「義務教育制度の弾力化」などを含む義務教育改革案である。その中でも、「地域・学校が権限と責任を持って行う学校運営」に注目したい。なぜなら、小学校英語活動は地域や学校によって異なるだけでなく、やりっぱなしのところが多いからである。


小学校英語活動について、地域や学校は客観的な外部評価を受けるだけの体制で取り組んでいるであろうか。平成十六年八月に行った国立教育政策研究所の調査によれば、英語活動について評価規準を作成し、その規準をよりどころに授業検証することでその教育成果について説明責任を果たしている学校は、ほぼ皆無であった。


しかし、小学校の英語活動は、地域や各学校で作成するシラバスやカリキュラムに基づいて実施している。したがって、当然、実施している地域や学校の運営責任が求められている。具体的には、「英語活動の意義は?」「何をどこまで、どのように実施するの?」「それは、何のため?」「その教育成果は?」などについて回答が求められる。そのため、実施段階において、英語活動の目標と評価規準を明確にしておく必要がある。


そこで、本稿では「地域が創意工夫を生かして責任を持って行う小学校英語活動の在り方」の一例をあげよう。東京都北区では、平成十六年度より全公立小学校で、第一学年から第六学年まで年間四〇回(二〇回はAETとのTT)活動の「英語が使える北区人」プロジェクト(筆者支援)を開始した。その教育改革を進めるにあたり、まず、英語活動の全体目標と学年目標の作成を、次に、年間の英語活動案(計六ニの活動モデル)と評価規準の作成に着手した。ここでは、その英語活動の全体目標と評価規準のみを紹介する。


●小学校英語活動の全体目標の一例
「日本や外国の生活・文化を理解するとともに、英語に対する興味・関心をもち、外国の人々との積極的なコミュニケーション活動を通して、自分の気持ちや思いを発信する子どもを育成する。」


●小学校英語活動の評価規準の一例
(1) 評価の観点
A 「コミュニケーションを楽しむ(関心・意欲・態度)」
B 「コミュニケーション力をつける(理解力・表現力)」
C 「日本や外国の生活・文化を理解する(興味・関心・理解)」

(2) 評価規準 A: 1. AET、先生、友達と英語活動を楽しんでいる(全学年)。
2. 相手の指示や質問に対して動作などで応じている(低学年)。
聞いている内容を大まかに理解している(中・高学年)。
B: 【理解力】 1. 相手の目を見て話を聞いている(全学年)。
2. 相手の指示や質問に対して動作などで応じている(低学年)。
聞いている内容を大まかに理解している(中・高学年)。
【表現力】 3. 相手の目を見て発話している(全学年)。
4. AETをまねて発話している(低学年)。
大きな声ではっきりと発話している(中・高学年)。
5. 理解したことを動作で表現している(低学年)
親しんだ言葉や身振りを用いて、自分の気持ちを発信している(中学年)。
親しんだ言葉を用いて、自分の思いを発信している(高学年)。
C: 1. 英語の歌やゲームなど、外国の言葉や文化に親しんでいる(低学年)。
外国の生活・文化に興味を持っている(中学年)。
日本と外国の生活習慣や文化の良さまたは違いなどに気づいている(高学年)。
2. 英語での言い方に興味をもっている(全学年)。 

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2004.vol.50 11月号(通巻599号)


どうする?小学校英語 第10回

英語活動と英語学習の違いってなに?


最近、小学校英語の担当者や各地の教育関係者から、次のような質問を受けることがある。「もし小学校英語が『必修化』になれば、小学校英語活動は中学校のような英語学習に変わるのですか?」「英語活動と英語学習、英語教育の違いは何ですか?」「中学校の英語教師から、小学校の英語活動は英語学習になっていないと言われたのですが、それは正しい見方ですか?」など。


●疑問に答える


これまで日本の学校教育では、幼小中高大等で英語教育を実施してきた。とりわけ中高では、英語によるコミュニケーション力を養うための英語教育を行ってきている。そしてその目標を達成するために、中高の英語教育では「学習指導要領に記載されている内容の言語活動における聞くこと・話すこと・読むこと・書くこと(四領域)」を教科の内容のまとまりとして実施することになっている。


ところが、学習指導要領では「言語活動」を通して四領域におけるコミュニケーション力を身につけるように規定しているにもかかわらず、実際には中高の英語教育とも(とりわけ高校では)、言語活動ではなく机上の英語学習(机上で英語という言語の勉強)が、いまだに主流のようである。したがって、評価もコミュニケーション力を測定するというより、ペーパーテストで英語の知識・理解を測定する方法が主流のようである。


それに比べて小学校の英語教育では、机上の学習ではなく、ALTなどと「聞くこと・話すこと」のコミュニケーションを重視した実際の体験活動が主流である。このような体験的言語活動を通して子どもたちは、英語特有のコミュニケーションの仕方(例えば、ピンポンのようなやりとり)を習熟していく。大変好ましいことである。もし小学校英語が必修化になった場合、中高の一部の好ましくない事態(机上の英語学習)にだけはならないように留意する必要がある。なぜなら、早くから英語嫌いをつくるだけだからである。


英語教育における英語学習には、「机上の英語学習」と「実際の体験的言語活動を通してコミュニケーション力を身につけるために行う英語学習」とがある。現行の学習指導要領には、中学校の外国語科の目標は、「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。」とされており、どこにも、机上の外国語学習を示唆する文言はない。


これまでのところ、全国で進めてきている小学校における英語教育は、おおむね既述の中学校外国語科の目標に沿う形で、英語という言語を用いたコミュニケーション活動(いわゆる英語活動)を重視した英語学習を展開してきている。そこでは、子どもは英語活動の楽しさや外国人と通じる喜びを通して、自信を得ることで「自分の中で新たな何かをつくり出す(いわゆる、自己発見・自己実現)」という教育成果を生んでいる(例えば、通常口の重い子が、ALTとの楽しい英語活動の時には活発に変容する現象など)。

このような子どもの変容ぶりを生み出す英語活動の成果は、仮に必修化になっても評価項目とすべき重要な観点である。なぜなら、このような変容は、中高生と違って児童期ゆえに顕著にみられる現象だからである。また、この「自己発見・自己実現(→個の確立)」の成果は、国際理解教育で求めている資質・能力であると同時に、現代の教育課題である「生きる力」の源泉でもあり、全人教育をモットーとする日本の義務教育のねらいに即しているからである。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2004.vol.50 9月号(通巻597号)


どうする?小学校英語 第9回

英語活動でイニシャティヴを育もう!


●自己の確立こそ生きる力の源泉
今、日本では国際化の進展に伴い「主体的に生きていく資質や能力」の育成が求められている。このことについて文部科学省は、国際理解教育の観点から次の三つの資質や能力の育成を要請している。
(1)異文化と共生できる資質や能力。
(2)日本人として、個人としての自己の確立。
(3)コミュニケーション能力等。
この三つの資質や能力は相補関係にある。なぜなら、真のコミュニケーションの成立のためには、自己の確立はもちろんのこと、共生するための資質や能力が不可欠だからである。
なかでも、(2)の自己の確立はきわめて重要である。現代の教育課題である「生きる力」の源泉だからである。その自己を確立するには、イニシャティヴ(誰にも言われなくても自分で決定し、自分で行動する力)の育成が必要となる。なぜなら、イニシャティヴが自己を確立するための「自己発見・自己実現」を可能にしてくれるからである。


●ALTを導入した英語活動の効果
では、そのようなイニシャティヴの基礎は、学校教育で育むことができるのであろうか。答えはYES!である。その一例を挙げよう。


平成十六年度現在、全国の半数以上の公立小学校で、ALT(外国語指導助手)を導入した英語活動(英語によるコミュニケーション活動)が行われている。音声言語によるコミュニケーションという点において、日本人以上に豊かなALTとの英語による体験活動が、子どものイニシャティヴを育むきっかけを作ってくれている。その主な成果は、次のとおりである。


外国の人と接するとき、最初はどの子も身がまえていたが、しだいに臆することなく自ら話すようになっていった(自己発見・自己実現)。ALTとの英語を使った楽しい実践的コミュニケーション活動は、子どもたちに通じる喜びと自信を持たせ、学校全体を明るくした。
消極的だった子どもが、自ら発言するなど、英語以外のときにも物事に積極的に取り組むようになった(自己発見・自己実現)。英語活動に取り組む前より、全体に子どもたちの発言が活発になり学校全体の活動も活性化した。


●英語を使って自己を確立する活動
小学校の英語活動では、今でも中・高等学校で主流となっている英語という言語のルールを学ぶための学習をするわけではない。英語活動では、例えば、「お買い物ごっこ」で自分のほしい物を手に入れるための実践的なコミュニケーションのしかたを、ゲーム形式で楽しんだりする。そこでは、ほしい物を手に入れるために、まず、子どもたちの「自ら決定する力」が求められている。次に、その気持ちや思いを伝えるために「自ら行動する力」が求められる。そのような場面や言語活動で求められる資質や能力は、実際の体験学習で培われるものである。そのため、教科のいわゆる勉強タイプの学習では、自分の力を発揮できない子どもでも、ALTとの会話で通じた喜びとほめられたことを契機に「積極的・主体的に」変容することがある。
したがって、小学校段階の英語活動は、「子どもが、英語を使って人と関わり、英語を使って自分自身の中に何かを創る(自己を確立する)」活動であるべきである。やらせは禁物である。中学校以降の英語教育も、本来そうあるべきである。なぜなら、真に実践的コミュニケーション能力を培うためには、既述のような考え方と実際の体験活動が必携だからである。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2004.vol.50 7月号(通巻595号)

どうする?小学校英語 第8回

英語が使える人材育成プランと義務教育の到達目標


ニ〇〇四年度の地方教育予算(案)によれば、新年度より日本の多くの地域で小学校から高等学校までの英語教育の充実を図る事業が始まる。例えば、F県の場合、高い英語力と国際感覚を子どもたちに身に付けさせるため「英語が使える人材育成Fプラン」を策定した。このようなプランは、以前より経済界が望むものであり、国際化の進展に伴う教育改革の一つでもある。今後、小学校で英語が教科として導入される方向にあることもあわせ考えると、これも自然な流れの一つなのであろう。

ところで、小学校において教科として英語が導入されるとなると、このような各地の人材育成プランも含めて日本の義務教育の到達目標と小学校から英語を始める意義との関連性について、再確認しておく必要があろう。なぜなら、全国の約ニ三、八〇〇の公立小学校で、仮に週に一回程度英語の授業が実施されたとして六年間でニ一〇時間余の授業回数しかできない状況下で「如何ほどの英語力が身に付くのか」、日本国内で英語を使って買い物をするわけでもないのに「小学校段階で一体何をどの程度教育するのか」という疑問を抱く人がいてもおかしくないからである。まして、構造改革特区のように他教科の時間を割いてまで導入するようなことにでもなれば、当然その導入の意義と期待される成果、さらにはそのプランを含めた義務教育の到達目標と成果が問われることになろう。

そもそも、日本の義務教育はこれまで全人教育として「生きる力」を育むため、三つの要素からなる力(確かな学力、豊かな人間性、健康と体力)を養う教育を施行してきている。そのような全人教育の世界に、部分的とはいえ人材教育の要素が入り込んでくるとなれば、国際化の進展に伴い英語が使える日本人を育成する必要があるとはいえ、教育現場には、この種の人材教育が目指すものと、全人教育のねらいとの間において接点を見いだせない人たちがいる。したがって、双方の接点をつないであげる必要がある。

幸い、小学校における英語活動にはその接点を結ぶ教育成果があがっている。これまでの実践研究の結果、ALT等との生の異文化体験活動を通して、子どもの「積極性」や「主体性」(確かな学力)と「感動する心」や「他人を思いやる心・協調性」(豊かな人間性)が育まれることが明らかになっている。これらは、いずれも日本の教育が求めている「生きる力」である。例えば、寡黙な子がALTとの楽しいコミュニケーション活動を通して活発な子に変容したという事例は数え切れない。もちろんALTにも温度差はあるが、彼らは日本人より言語・非言語によるコミュニケーションが豊かであり、日本人よりよく誉める。人は、誰でも誉められればうれしくなるもの。そして、その喜びは意欲へとふくらみ、やがて自信へとつながる。子どもの主体性もそのような状況下で育まれることが多い。

それ故、英語によるコミュニケーション活動に関心を抱き、その活動を通して英語を使って子ども一人ひとりが「自己を確立」していく。そんな子どもの主体性を重視した楽しい体験活動を実施している学校の子どもたちは、自然に英語の技能も身に付けていく。しかし、仮に技能の習得だけを前面に出した機械的なくり返し練習や、外国の人々との生のコミュニケーションもない英語教育、さらに半ば強制的に英語を暗記させたりすれば、子どもは英語嫌いになるであろう。それでは、何のために導入するのか説明のつかない教育プランになりかねない。したがって、策定したプランをスムーズに施行するためにも、これまでの小学校英語の教育成果とそのプランを含む義務教育の到達目標との接点を明示することが大切である。
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2004.vol.50 5月号(通巻592号)


どうする?小学校英語 第7回

これからの小学校英語活動の方向性


日本の公立小学校における英語活動は、平成十四年度に始まり今年で三年目に入る。平成四年度より取り組んできた実験校にとっては十三年目となる。したがって、これからの小学校における英語活動はどうあるべきか、そろそろその方向について考える必要がある。そこで本稿では、文部科学省のこれまでの公表資料と、教育現場の教育成果の接点を軸に考察してみたい。
これからの小学校英語は、中学との連携や、他教科、例えば国語教育や「総合的な学習の時間」(以下「総合」)等とのクロスカリキュラムの観点から広く考察する必要があろう。なぜなら、平成十五年三月、文部科学省は「英語が使える日本人育成のための行動計画」を発表し、その中で今後国際社会の中で生きていく日本人を育成するためには、広い視野からカリキュラムを編成する必要性があることを示唆しているからである。


●中学校との連携を踏まえた指導のあり方
まず、「日本人に求められる英語力」については、「中学校卒業段階では、挨拶や応対、身近な暮らしに関わる話題などについて平易なコミュニケーションができる」ことを目標としており、小学校英語活動推進の際にも、今後は中学校の英語教育を踏まえた指導の在り方を配慮することが重要であると述べている。配慮事項とは次の通りである。
「『総合的な学習の時間』における英会話活動においては、単なる中学校の英語教育の前倒しは避けるとともに、教員が一方的に教え込むのではなく、児童が楽しみながら外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど、小学校段階にふさわしい体験的な学習活動を行ない、積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲や態度を育成することが重要である。」


●国語教育との関連
次に、国際教育との関連においては、「英語によるコミュニケーション能力の育成のためには、その基礎として、国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成するとともに、伝え合う力を高めることが必要である。また、豊かな人間性や社会性を持ち、国際社会の中で主体的に生きていく日本人を育成するためには、思考力を伸ばし、豊かな表現力や言語感覚を養うとともに、......」と述べている。
上記の青文字部の「国際社会の中で主体的に生きていく日本人の育成」とは、文部科学省が求めている国際理解教育の主たる目標である。このねらいを達成するためには、例えば、体験的な活動を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲や態度を育成する必要がある。実は、この積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成は、中学校の外国語科の三つの目標の一つであり、この資質の基礎は、これまでの研究で小学校においてALT等との英語活動を通して育まれることが明らかになっている。しかしながら、国際社会の中で真に主体的に生きていくためには、「総合」のねらいである「生きる力 (zest for living 生きようとする熱情) を培う必要がある。資質面では既述した「自主性・主体性」を、能力面では「創造力・問題解決力」を育む必要がある。はたして、小学校英語活動でもそのような能力の育成が可能であろうか。答えはYES!である。その成果の一部を紹介しよう。
平成八年度より八年間英語活動に取り組んできた富山県氷見市海峰小学校(松原律子校長)では、「総合」の一活動として調べ学習を導入。調べたい内容を英語で伝える際、子どもたちは伝えたいことを自ら決定し、自ら表現行動する (initiative)。その結果、子どもの自主性・主体性だけでなく、創造力・問題解決力等の育成に大きな成果をあげている。(詳細は、渡邉寛治編『小学校英語指導の基礎・基本』教育開発研究所、ニ〇〇三を参照)
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2004.vol.50  1月号(通巻588号)


どうする?小学校英語 第6回

英語活動のプロデューサーは担任!


●担任が英語活動の計画を立てる
英語活動の主役は子ども、そして、担任はその子どもの目を輝かせる活動を可能にするプロデューサーでありたい。英語活動の「ねらい-活動内容-評価の在り方」の三位一体を構築し実施するのは、担任が中心となって行うべきである。なぜなら、英語活動を取り入れた教育成果について保護者に説明責任を果たすのは、担任だからである。
日本の小学校英語活動の授業時間数は、年間数回から数十回と非常に少ない。将来、仮に教科化になったとしても週に一、二回程度であろう。そのことを思えば、より一層「英語活動導入の意義と成果」について、学校はきちんと説明責任を果たす必要がある。


●英語を教え込んでいないか
現在、日本の半分以上の公立小学校で英語活動を取り入れた国際理解教育が行われている。その多くで、ALTを導入した活動を行っている。ところが、そのALTに英語活動の活動計画や活動内容のすべてを任せている学校がある。残念ながら、平素、中・高等学校で英語を教えているALTの多くは、小学校でも英語を教え込むものだと思い込んでいる。実際には、主として子どもに英語という言語のルールを習得するために繰り返し練習を課すため、特に高学年の子どもたちは英語を嫌いになっていく事態が生じている。単純な繰り返し練習は、彼らの心的発達に適していないからである。これでは、担任は年度末に説明責任が果たせない。


●ねらいは、子どもの関心や意欲を養うこと
既述の青文字部について『小学校英語活動実践の手引』(文部科学省)の英語版には、"Their primary purpose is to foster interest and desire-not to teach a language."(p.123)「英語活動の主なねらいは、ことばを教えることではなく、興味・関心や意欲を養うこと」と記述されている。これは、研究開発学校をはじめ多くの学校が小学校英語活動で得た貴重な知見である。子どもの興味・関心や意欲を軸に活動内容を構築すれば、わざわざ言語そのものを教えなくても、その体験活動を通して子どもは自然に英語によるコミュニケーション力を身に付けるようになるという意味を示唆しているといえよう。
したがって、担任は、まず自校の児童を「どのような人間に育てたいのか」、そのねらいを明確にすべきである。次に、そのねらいは「国際理解教育のどこに位置づくのか」検討する。その位置づけが確認できたら、そのねらいを全うできそうな活動の原案を検討する。この時、活動案がそのねらいを全うする活動内容であるかどうかを評価する評価規準も作成する。(この評価規準は、学習評価とカリキュラム評価の双方に用いる。)それができたら、英語表現等を含む活動案を作成する。その際、ALT等に手伝ってもらう。
その上で英語活動の授業を行う。授業はALTとのTTが理想であるが、担任が単独で行うこともあろう。どちらも評価規準を重視しながら授業を行うことが大切である。(「どうする?小学校英語~第五回~」参照)。評価規準を重視しない授業は、そのねらいを真に全うした授業とは言いがたい上、教育成果の説明責任も果たせない。


●担任が単独で授業を行う場合
担任が単独で授業を行う時は、次の点に留意しよう。


(1)モデル音は、できるだけネイティブのものとする(CD等の活用)。
(2)文法や単語の知識を教え込まない。
(3)英語活動はおもしろいという動機付けを高め、自信をつけてあげよう(そのためにはたくさん誉めてあげよう。)。
(4)子どもと一緒に英語活動を楽しもう
以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2003.vol.49  11月号(通巻586号)

どうする?小学校英語 第5回


小学校英語活動に期待できることとできないこと
―育みたい資質と能力―


コミュニケーションを図ろうとする態度
前回、英語活動も評価の観点を重視した活動でありたいと述べた。なぜなら、仮に将来教科化されたとしても週に一~ニ回程度の授業回数が予測されるだけに、なおさら評価の観点と観点の趣旨等(育みたい資質と能力)を明確にした上で、できることなら到達目標を示す評価規準を拠り所とした英語活動を行う必要があるからである。
これまでの研究で、小学校英語活動の最大の成果は、子どもたちの積極性や主体性が育まれることだということが明らかになっている。これは、英語学習の成果ではなく、ALT等とのコミュニケーション重視の体験活動のおかげである。彼らの多くは、音声言語によるコミュニケーションを重視する文化に育っており、その影響が子どもたちにももたらされたようである。したがって、今後の小・中連携の教育を重視する立場から中学校教育との接点を求めた場合、中学校外国語科の目標の一つである「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成」の基礎は、小学校段階から期待できそうである。


●コミュニケーション能力
問題は、外国語科の三つ目の目標である「聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」点である。小学校の英語活動を通して、何がどの程度可能であろうか。
まず、中学校の「聞くこと」の目標は「英語を聞くことに慣れ親しみ、初歩的な英語を聞いて話し手の意向などを理解できるようにする」ことである。また、その評価規準は「初歩的な英語の情報を正しく聞き取ることができる」「初歩的な英語を、場面や状況に応じて適切に聞くことができる」となっている。(*評価規準は国立教育政策研究所が作成)
これまでの研究開発学校等の研究成果から、「聞くこと」の目標のうち青文字部分の「聞くことに慣れ親しみ」については、小学校英語活動でも期待してよいことが明らかになっている。しかし、評価規準の網掛け部分の「正しく/適切にできる」については、英語に親しむ時間が少ないこともあって、やや難しいようである。
次に、中学校の「話すこと」の目標は「英語で話すことに慣れ親しみ、初歩的な英語を用いて自分の考えなどを話すことができるようにする」ことである。また、その評価規準は「初歩的な英語を用いて、自分の考えや気持ちなどを正しく話すことができる」「初歩的な英語を用いて、場面や相手に応じて適切に話すことができる」となっている。
小学校英語活動では青文字部分の「話すことに慣れ親しみ」については可能であるが、目標の「考えなど......できる」や評価規準の「正しく/適切にできる」についてはやはり難しいようである。
その原因は、少なくとも二つ考えられる。一つは、小学校英語活動では言語のルール等については体系的かつ系統的に学習しているわけではないこと。もう一つは、英語に親しむ時間が少ないことである。よく言われることであるが、母語以外のことばを習得するには、シャワーのごとく浴びる必要がある。しかし、自分で文を生成して言うことはできなくても、慣れ親しんだ表現やコミュニケーションのしかたは身に付くようである
したがって、日本の教育環境と現状から推察して、現段階で小学校英語活動に期待できること(育むことができる主な資質と能力)は次の通りである。


(1)積極的にコミュニケーションを図ろうとする(資質)
(2)英語音の特徴を身に付ける(能力)
(3)話し手の意向などを理解する(能力)
(4)英語での簡単な言い回しやコミュニケーションのしかたを身に付ける(能力)

以下次号


(社)日本図書文化協会「指導と評価」2003.vol.49  9月号(通巻584号)


どうする?小学校英語 第4回

英語活動も評価の観点から


小学校の英語活動は教科ではない。しかし教科同様、英語活動も評価の観点を重視した活動でありたい。なぜなら、「学校教育は評価に始まり、評価に終わる」べきだからである。評価の在り方が変われば、教育の在り方も変わる。逆に、教育の在り方を変えたければ、評価の在り方も変えねばならない。元来、教育とはそういうものである。


平成十四年度から正式に始まった小学校の英語活動は、今年度に入り全国各地で積極的に実施されているようである。教育センターや民間の教育団体が主催するこの種の研修講座も増えてきた。その講座内容を見ていて気になることがある。ほとんどの講座内容が評価の観点から構成されていないのである。


講座の多くは、英語教育に関する教授理論と演習、それに実践報告などで構成されている。しかし、その講座で教授される指導方法で実施される授業が、その授業あるいは単元のねらいを全うしているかどうか、また、その授業で子どもの何が育まれているかなどについて指導者は知る必要がある。それなくしてやみくもに指導しても、無意味だからである。


しかも、日本の小学校英語の授業数は少ないのが現状である。年間授業数は、数回から十数回(平成十四年度の国研調査)である。仮に教科化になった場合でも、週に一~ニ回の授業数であろう。そのような状況を考えると、なおさら評価の観点と観点の趣旨等を明確にした上で、できることなら評価規準を拠り所とした英語活動を行う必要がある。なぜなら、外国語を習得するにはシャワーのごとく浴びる必要があるのに、そのことばに接する機会も少ないとすれば、英語活動の「ねらいと活動内容と評価」の三位一体化をより明確にする必要があるからである。


●考えられる評価の観点
では、どのような評価観点と観点の趣旨が考えられるであろうか。今後の予測される動向から、中学校外国語科のものを参考にする必要があろう。なぜなら、これからは小中一貫教育の展望をもって見通すことが重要だからである。


まず、中学校外国語科の目標は
「外国語を通じて、
(1)言語や文化に対する理解を深め、
(2)積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、
(3)聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う
こととされている。


次に、外国語科における評価の観点とその趣旨は次の通りである。
「(1)コミュニケーションへの関心・意欲・態度...コミュニケーションに関心をもち、積極的に言語活動を行い、コミュニケーションを図ろうとする。
(2)表現の能力...初歩的な外国語を用いて、自分の考えや気持ちなど伝えたいことを話したり、書いたりして表現する。
(3)理解の能力...初歩的な外国語を聞いたり、読んだりして、話し手や書き手の意向や具体的な内容など相手が伝えようとすることを理解する。
(4)言語や文化についての知識・理解...初歩的な外国語の学習を通して、言語やその運用についての知識を身に付けるとともに、その背景にある文化などを理解している。」


これらの目標や評価観点およびその趣旨のうち、小学校英語活動では何がどの程度可能であろうか。


まず、目標の(1)及び評価観点等の(4)については、現状では親しむ程度である。次に、目標の(2)及び評価観点の(1)については、大いに期待できる。なぜなら、これまでの小学校英語活動の最大の成果であるといえるからである。ALT等とのコミュニケーション活動のおかげで、子どもたちの積極性や主体性が育まれるからである。


問題は目標の(3)及び評価観点等の(2)と(3)である。これまでの研究成果によれば、主に音声について慣れ親しむ程度である。このことについて次回、詳しく述べることにする。

以下次号


(社)日本図書文化協会 「指導と評価」 2003.vol.49 7月号(通巻582号)より


どうする?小学校英語 第3回

英語活動は、「生きる力」の源泉を育む活動である


◎小学校英語は「生きる力」を育むのか?
小学校における英語活動(※)は「総合的な学習の時間(以下、「総合」)」を利用して行われる。その「総合」のねらいは「生きる力」を培うことであり、資質面では主に「自主性・主体性」、能力面では「創造力・問題解決力」などの育成が求められている。
はたして英語活動でそのような育成が可能であろうか? 英語活動と「総合」のねらいとの関連性はあるのだろうか。


◎子どもも教師も変わった!
新宿区戸塚第一小学校では、平成十四年度まで三か年ボランティアとALT(外国語指導助手)を交えた英語活動を行った。その成果として「英語活動で子どもたちも教諭も変わった」と報告している。

 
●子どもの変化
まず、ALTに英語が通じる体験、人前で話す経験を積み重ね、コミュニケーションへの自信を持った子どもたちは、次の四つの資質面で変容したこと。


(1) 外国の人々と接するとき、最初はどの子も身構えていたが、しだいに臆することなく話すようになっていった。ALTとのふれあいは子どもたちを活気づけ、学校全体を明るくした。
(2) 消極的だった子どもが自ら発言するなど、英語活動以外のときにも物事に積極的に取り組むようになった。全体にこどもたちの発言が活発になり、学校全体の活動も活性化した。
(3) ALTにほめられたり、「振り返りカード」の感想を通して自分のよさを友達が認めてくれることで、自信を得るようになった。これは自己の確立につながるself-esteem(自己の肯定・自尊)の始まりである。
(4) ALTや外国の子どもたちを交えた異文化交流を通して、子どもたちの外国への興味・関心が高まった。世界の人々と積極的に関わろうとする態度が芽生えた。これらはいずれも「総合」がねらいとする「生きる力」の源泉と深い関わりがある。


●教師の変化


(1) 子どもと一緒に英語活動を楽しむことで、自分についてこれまでにない新たな自分を発見し、それが自信につながった。
(2) 子どもを複眼的な目で見ることの大切さに気づいた。教科の学習ではやる気がなく、遅れがちな子どもが、英語活動では楽しく活動していることを知り、多様な視点から子どもを理解するようになった。
(3) 子どもが英語活動を通して学習意欲を高めていくことに刺激を受け、教科でも工夫を行うようになり、授業改善につながった。
(4) 英語活動の評価規準(何を育むのか)を設定し、その規準を拠りどころに学習者の学習評価をするだけでなく、「各授業は各単元のねらいを全うし、各単元は年間の教育目標を全うしているか」というカリキュラム評価をすることの大切さを認識した。

このような児童と教師の変容の成果から、ALT等との英語活動は子どもの自己表現への潜在能力を引き出し、「生きる力」の源泉ともいうべき「積極性・自主性・主体性」を生み出す素晴らしい活動だと結論づけている。


文部科学省国際教育課の公表資料によれば、国際理解教育の目的は「国際社会の中で、主体的に生きていく資質や能力の育成」とある。その意味では、「総合」における英語活動は、まさにそのねらいを全うする活動であるといえよう。


※小学校の英語活動について、文部科学省は中央研修の場において、実施する際の配慮事項を示し、注意を促している。
以下次号


(社)日本図書文化協会 「指導と評価」 2003.vol.49 5月号(通巻580号)より


どうする?小学校英語 第2回

小学校英語は英語活動であって、英語の勉強ではない


英語活動ということばは、文部科学省で『小学校英語活動実践の手引』(平成十三年)を刊行する際に委員会(筆者は副座長)で決めた表現で、いわゆる「英語による(コミュニケーション)活動」の短縮形である。したがって、小学校における英語活動とは英語による体験活動であって、英語という言語のルールを習得するための学習や勉強ではない、という意味である。


実は、平成四~十一年度まで開発された全国六六の文部省指定研究開発学校での研究成果は、英語の勉強ではなくコミュニケーション活動を行った結果、子どもたちの目は輝き積極性や主体性など、とりわけ資質面において大きな変容が見られたということであった。具体的には、多くの子どもたちが外国の人々と臆することなくコミュニケーションを図るようになったのである。英語活動という表現にしたのも、そのような成果を重視したからである。

したがって、文部科学省(国際教育課)では、研究開発学校の研究成果を生かして表に示すような英語活動の配慮事項を設定した。

≪表≫
 英語活動の配慮事項
[1] 小学校段階にふさわしい体験的な学習を行う
[2] ネイティブスピーカー、海外生活体験者などを活用する
[3] 言語、文化に興味・関心を持たせる
[4] 文法や単語の知識を教え込まない
[5] 中学校の英語教育の前倒しにしない
[6] 英語はおもしろいという動機づけをする
[7] 学習段階に応じた指導を考える
[8] その他、身近な英語を扱う、音声を中心とした活動を行う


しかしながら、この表の配慮事項は公表されているにもかかわらず、意外に知られていない。その証拠に、教育現場では様々な受け止め方をしており、例えば、文法の定着を図るような中学校の英語教育に近いことをしている学校もある。もっとも、ほとんどの学校では英語活動を始める時、どのように進めればよいのか悩んでいるのが実態であるといえよう。

筆者は、平成四年度より百数十校の指導にかかわってきたが、多くの学校が抱えている課題や問題は主に次のニつにあると感じている。

まず、英語活動は「総合的な学習の時間(以下、「総合」)」を利用して行われるが、いわゆる「生きる力」を培うための「総合」のねらいと会話重視の英語活動との関連性はどうとらえればよいのか、理解に苦しむという疑問である。

ニつめは、そのような関連性などについては真剣に考えることもなく、ただただ英語そのものを教えればよいという発想で取り組んでいる学校があるという事実である。そういう学校では、英語活動を始めて一年くらいすると「数少ない授業時数の中で、われわれは一体何のために行っているのだろうか」という疑問を抱くようになる。というのも、子どもたちの英語の力が思うように身に付かないからである。

日本の小学校は単に英会話を学ぶための語学学校ではない。子どもたちが「生きる力」を身に付けるために必要な基礎基本を学ぶ公的な教育機関である。そのような公共教育においては説明的責任が求められる。したがって、授業時数が少なくても英語活動を通して子どもの何を育むのかを確立し、評価規準(何を評価するのか)を明確化することが大切である。
以下次号

(社)日本図書文化協会 「指導と評価」 2003.vol.49 3月号(通巻578号)より

どうする?小学校英語 第1回

英語活動を通して、大海で泳げる子どもを育てよう

平成14年より、全国の公立小学校で「総合的な学習の時間」を利用して英語を取り入れた授業が行われている。文部科学省国際教育課の調査によれば、平成14年度の英会話学習への取り組みの現状は50%を越えている。しかし、その実態はさまざまである。歌やゲームを中心とした活動や、調べ学習と英語での発表をセットした活動、さらには、いわゆる英語学習に近い活動など、各学校の方針で異なっている。

 

2001年6月に国立教育政策研究所とベネッセ教育研究所が共同で行った「小学校における英語活動などを取り入れた国際理解教育」の実態調査においてもさまざまな回答が得られた。例えば、低学年は音声と絵主体の英語学習や交流を通した言葉・生活の体験活動、中学年は表現主体の活動やアルファベットの導入、さらには産業・言葉・文化の違いに触れる体験活動、高学年は会話主体の活動や日本との違いを調べる活動など。

 

ここで大切なことは、そのような活動を通して「子どもの何を育むのか」である。筆者は、英語活動は、国際理解教育の一環として行われるのだから、「英語活動を通して大海で泳げる子どもを育てよう!」と提案したい。その意味は次の通りである。

 

仮に、学校という教育の場を大きな水槽と見立てるとしよう。その水槽の中には、学校教育で言う規律・規範というきれいな真水が入っている。そして、その中には、可愛い児童の金魚と先生の金魚が泳いでいる。そのような状況の中で、子どもらは国際理解教育の一環として異文化の調べ学習を行い、子どもどうしで活発に発表し合ったとしよう。しかしながら、その発表活動は水槽の中での活動である。しかも、金魚どうしで行っている活動である。したがって、どんなに活発な活動でも、所詮、真の国際体験活動とは言いがたい。

 

では、真の国際体験とはどのような活動を言うのであろうか。それは、大海で泳ぎ生きていけるようにしてあげる活動をすることである。大海には、鯵や秋刀魚、それに鯨もいる。見たことのない深海魚だっている。水も真水ではない。そこでは、しっかりしていないと生きてはいけないであろう。しかも、当然、「積極的に、主体的に」しかも仲良くコミュニケーションを図ることが求められるであろう。したがって、一人一人の「個の確立」を図る必要がある。個を育むということは、現代の教育課題であり、「総合的な学習」のねらいである。「生きる力」の根源を育むということでもある。そのためには、さまざまな資質や能力を培わねばならないが、とりわけ「生きる力」の核ともいえる「積極性・主体性」を育むことは必携である。

 

では、小学校の英語活動でそのような資質を育むことができるのであろうか。答えはYES!である。その成果の事例を述べよう。まず、平成十二年度より三か年英語活動に取り組んできた東京都新宿区戸塚第一小学校の研究成果によれば、「初めは身構えていた子もALTの巧みなコミュニケーションに誘導されるうちに、臆することなく話せるようになった。」そうである。また、福井市立湊小学校の報告(平成十一年)によれば、「恥ずかしがり屋の子がALTとの英語を使った活動を楽しむことができたことに喜びと自信を持ち、日常の様々な場面で活動の場を積極的に求めていくようになった。」そうである。

 

このように、ALTとの英語活動の場は大海で泳ぐ活動であり、子どもの「積極性・主体性」を育む魔法の活動といえそうである。
以下次号

 

(社)日本図書文化協会 「指導と評価」 2003.vol.49 1月号(通巻576号)より

渡邉寛治先生プロフィール

(わたなべ  かんじ)
昭和21年生まれ。三重県出身。文京学院大学外国語学部教授。